ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

たまにはキレてみる(ss)



角都は自他ともに認める短気者である。しかし自分の都合で殺せない相棒と組んでからは、不本意なことにそうとばかりも言えなくなってきた。愚かで理解が遅い相棒に今日も角都は押し殺した声で辛抱強く説教する。商談中に寝るなと言っているだろう、だらしないぞ飛段。うっせーなあ、と相棒はだるそうに返し、古ぼけたソファの上で貧乏揺すりをする。オレに関係あるとこだけ後で教えてくれりゃいーだろ、あんなの聞いてもわけわかんねーし。バカが、とにかく今度寝たら殺すぞ。それをオレに言うか角都よ、つーかまだ終わんねーのかよコレ。あくびを隠そうともしない相棒に、駄目だこいつはまた寝るに違いない、と角都は腹を立てる。どうすればいいのだろう、お前のうつらうつらしている顔はイキかけの顔に似ているのだとはっきり言うべきなのだろうか。今は中座している商談相手も涼しい顔の裏で何を考えているかわかったものではない。眉間にしわを寄せる角都をよそに飛段が大声で言う。キャンキャン文句垂れてんじゃねーよ、だいたい眠くってしょーがねーのは角都のせいだろが、朝までしつこくやりやがって、このスケベ野郎。あまりな言い草に角都が目を剥いたとき、商談相手が部屋に戻ってきた。さすがにビジネス用の態度を保っているが、スッと角都に走らせた視線が何やら胡乱気で、角都は動揺をあらわにしないよう顔の筋肉に力を入れる。多分先ほどの飛段の発言を聞かれたのだろう、しかし金離れのいい上客にあのような目で見られるとは心外だ、悪いのは自分ではなくて飛段の方だというのに。角都は商談を再開するが、いったん失われた落ち着きはなかなか戻らず調子が上がらない。そうこうするうちにまたもや飛段が船を漕ぎ始める。足を蹴ってみても平気で居眠る相棒に一瞬にしてイライラの針が振り切れた角都は、不安定に揺れる頭を片手でつかむとその上体を自分の膝に抑えつけた。いきなり顔を相棒の股間に押しつけられた飛段は、へぶっ、と変な声を上げてじたばたしたが、角都がみりみりと体重をかけ続けるとそのうちぱたりと動かなくなった。案件を一つ片づけて余裕を取り戻した角都は満足のため息をつき、商談相手に改めて向き直る。心なしか相手の顔が先ほどよりも青ざめ強張っているようだが、気にすることなく角都はいつもの抑制された低い声で話を進める。相手の緊張を解こうと小さな冗談さえ口にする。憤怒をぶちまけた後はいつだってすがすがしいし、膝の上の擬似死体もしばらくは大人しくしているに違いない。