ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

かびくさい天国(ss)



飛段は角都よりも遅れて合流地点に到着した。冬の名残のようなみぞれの中、飛段が密かに相棒と自分だけの場所だと考えていた廃屋には旅人が何人も入り込んでいて、漠然と何かを期待していた飛段を落胆させた。犬のように頭を震わせて水をはね飛ばした飛段は、角都がいつもの角都の場所(と飛段が決めている場所)に座っているのを確認して少しほっとしたが、いつもの飛段の場所(と飛段が決めている場所)に他の男が座っていて、あまつさえ角都と会話をしているのを見ると同じぐらいがっかりもした。定位置を取られて身の置き所がない飛段を、しかし角都はすぐに呼び、古いソファから腰をずらすと、自分のすぐ隣、いつもの角都の場所(と飛段が決めている場所)に飛段を座らせる。遅いぞ、何をしていた。言葉は短くそっけないが、角都の体温で温まったちょうど一人分のスペースに収まった飛段は、なんだかあやされているような心持がしてつい安堵してしまう。多分これはアレだな、と飛段は考える。ひどく寒いところを歩いてきたからちょっとあったかいところに入っただけで天国みたいな気がするんだろう、それだけのことだ。