ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

礼を言いなさい(ss)

読んで下さるみなさまへ、ありがとうの気持ちをこめて。
なんかもういろいろギリギリです(笑)。行ってまいります。またお会いしましょう。



角都はオレにありがとうって言わねーのな、と言われた角都がわざわざ身を起こして飛段を見たのは、それが明らかに飛段の独り言だったからである。焚火を挟んで仰向けに寝転がっている相棒は頭の下に腕を組み、虚空を眺める風情だが、起きあがった角都を見て、あ、と言った。声に出すつもりはなかったのだろう。何の話だ、と尋ねるとあからさまに渋い顔をし、舌打ちをして、なんでもねーよと言う。氷雨に降られて避難した洞窟は天井が低く、立ち上がり背を曲げて動く角都は野生の生き物のようで、飛段はそのしなやかな動きに一瞬目を奪われながらもわずかに身構える。角都は飛段のすぐ傍に膝をつき、表情の読めない顔で見下ろす。忌憚のないところを言ってみろ、お前は礼の言葉が欲しいのか、別段何かしてもらった覚えはないが。見下ろされている飛段は眉を寄せて口をとがらせる。二人のコートは風雨を遮るために入口に掛けられていたので、飛段の生まれたばかりのような肌と角都の縫い目だらけの肌がむき出しになっている。や、思っただけだって、オレもおめーに礼なんか言ったことねーし、だからオレたちお互い様っての?角都はフンと鼻を鳴らして飛段の上にかがみこみ、露出の少ない顔を相手の顔すれすれに近づける。お前とお互い様など御免こうむるから言ってやろう、お前を愛しているので言葉など不要と思っていたが仕方ない、ありがとう、これで満足だろう。接近と同じように唐突に離れていく角都を、飛段はあっけにとられて見送る。ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!オイ今なんつった?角都ゥもっかい言えよ、オレも言うからありがとうって、オレと組んでくれてありがとう、首くっつけてくれて、一緒にいてくれてありがとうって言うから!もっかい言ってくれって、なあ!