ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

執着を見る(ss)



飛段の部屋からぞっとするような声が聞こえた。ギャー、アー、と響いた声があまりにも異様だったので、角都はとっさに敵襲を疑ったがそうではなかった。寒かったからァ、と飛段がおめく。今日はすっげー寒かったからあっためてやろうとしたんだ、そしたらすぐに浮いて、浮いて。飛段が手にしているのは昔風の丸い金魚鉢だ。夏祭の射的で飛段が手に入れた。空ではつまらないから、店じまいする金魚屋から角都がただ同然で手に入れたちんまい金魚を二匹入れてやった。その二匹が、ほんのり湯気を上げる水の中で腹を上にして浮いている。金魚などまた買ってやる、と口走った角都に飛段は頭を振り、軋んだ声を絞り出す。それは別のやつらだこいつらじゃない。バカが、と言い捨てて角都は部屋を後にする。殺戮を使命として戦場を駆け飛んでいく者の追悼を見ることに耐えられなかったのである。