ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

実は、言いたかった(ss)



圧害との距離が近すぎたのか、風遁を食らった相手の残骸とともに、殺虫剤を噴きかけられたハエのように飛段までが落ちてきた。ぶざまに尻から着地した飛段に角都は近づき、とりあえず、大丈夫か、と声をかけた。ぽかんと見上げる飛段のためにマスクをおろし、もう一度繰り返して尋ねるが、飛段はますますぽかんとするばかりである。どうやら風圧で耳がいかれたらしい。まあ飛段のことだから鼓膜などすぐに再生されるのだろう。そんなことを考えながら相棒の阿呆づらを見下ろしていた角都は、ふいに、相手の聴覚が損なわれているうちに面と向かって何かを言ってやりたいという妙な衝動に駆られた。躊躇の末に相棒の前に屈みこみ、口を開く。あー、飛段、俺は長年生きてきていろんな奴と組んだが、お前は、まあ悪くない連れだと思うぞ。言い終えたとたん歯切れの悪い言葉を恥じて(ああくそ何を言っているんだ俺は!)顔をしかめる角都を、飛段は飛段なりに解釈し、おい気にすんなよ角都オレは不死身だぜェとずれた応答を返してニパァと笑った。バカが、と吐き捨てた角都は、つい先ほど吐いてしまったどうしようもないほどの本音をごまかすべく、ぐしゃぐしゃに乱れた飛段の髪をさらに乱暴にかき混ぜてやったのだった。