ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

中途半端がいちばんよくない(ss)



顧客との商談のために宿に泊まった角都と飛段だったが、約束の時刻まで余裕を持って宿入りしたことが逆に災いした。商談前に角都は、帳簿の整理をしておいたり宿の新聞で相場を見たり汚れた体を清めたりしたかったのだ。風呂には入った。けれどもそこでひどく挑発された角都は部屋に戻ってから汗をかくようなことをしてしまった。こんなつもりではなかったとやや反省した角都は行為をはしょって終わらせ、とりあえず机に帳簿を広げた。集中してきたころ、背後の褥からさっき適当にやっつけた相棒が声をかけてきた。たりねぇよ、かくず。角都は無視を決めこんだが相棒も諦めない。なあかくず、ぜんぜんたりねぇんだ、おれっておかしいんだろうな、けどほかのやつにたのむわけにもいかねえだろ、おれにはおめーしかいねえんだからよぉ。これが攻撃的な口調だったなら放っておくことができただろう。角都の理性は帳簿を選ぼうとしたが、妙に心細そうなしょぼくれた声にまず耳が、次いで浴衣を引っかけてずるずる這い寄ってくる様子に体までが反応してしまった。角都はちらりと時計を見た。約束の時間まであと三十分と少しある。きちんと支度をして商談に備えるのならそろそろ身なりを整えるべきだが、この状態では相棒は同席できまい。ならば帳簿を調べる傍ら相棒を軽くあしらって大人しくさせ、自分だけ身じまいをして出向くことにしよう。いざとなったら手っ取り早く意識を失わせてしまえばいい、三十分もあれば楽勝だ。浅はかにも角都は自分にそんなことができると考えてしまったのである。