ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

浄化する手(ss)



夕暮れに歓楽街を通った二人は客寄せの女や男にまとわりつかれ、特に飛段は往来のまん中で遊女たちに取り囲まれて立ち往生した。ほうほうの体で逃げ出したのちに入った茶屋で、飛段は鼻にしわを寄せ服に染みついた香りについて不満を述べ始めた。あいつら一人でもくせーのにまとまって来やがるとおっそろしい臭いになるよな、鼻が曲がるぜホント。癇性らしくコートの袖や身頃をバタバタ叩く相棒に、角都は縁台で揺れる茶碗を抑えて眉をひそめた。せっかく金を出して茶を飲んでいるというのにせわしい奴だ、においなど放っておけば消えるだろうが。言いつつ相棒の袖を軽く払ったのは、その腕の動きを落ち着かせたかったからである。飛段は払われた袖を見ていたが、角都が手を引っ込めるとそれを追うようにもう片方の袖を差し出した。なあこっちも頼むぜ角都、パッパッてやってくれよ。背中と、前んとこも。怪訝に思いながらも言われるまま角都が軽く掃くように払ってやると、飛段はどうしたものかそれきり不平をこぼすのをやめ、茶をちびちび啜り始めた。愚痴が続くと思っていた角都は拍子抜けした。実のところ、飛段のコートからいまだに漂う甘い香りは忍の嗅覚には辛いものなのだが、飛段自身にとってその問題は解決済みらしい。角都は密かに不快だった自分のコートも払ってみたが、当然のことながら何も改善されない。そうこうする間に飛段が勝手に注文した団子が運ばれてきて、角都の注意はそちらに移った。無駄遣いをするな、たまにゃいーじゃねーか、という愚にもつかないやり取りを経て、いっこやるからオメーも食えよォほら、アーン、と相棒が差し出してきた好きでもない串団子を角都はつい口にしてしまい、ひどく恥ずかしくなった。実は自分も空腹だったのだ、と誰にともなく言い訳を考えながら、角都は夕陽のせいで火照った顔をマスクで覆った。