ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

果報者(ss)

藤堂様のリク「覗き見」によるssです。藤堂様、いつもありがとうございます。




合流場所の茶屋に先に着いたのは角都だ。示し合わせていた時間にはまだ早く、人目につくことを嫌った角都はコートを脱ぐと、茶屋の奥、光の届かない一角に腰を据え、格子窓から外の往来を眺めていた。じきに飛段も到着したが、待ち合わせの時刻まで間があったためだろう、茶屋の中までは見ずに表の縁台に腰をおろし、やはり往来を眺めて相棒を待つふうであった。さしたる理由もなく角都は声をかけないまま、陰から一方的に相棒を眺めていた。単体の相棒はいつも隣にいる者とは異なって見えた。目つきが悪く、記憶にあるよりも精悍な顔をしており、肩を怒らせている。しばしば道の遠くを見透かすように顎を上げるのは相棒を探しているからだろう。あいつは一人の時にはあのような様子なのだな、と知らず知らず熱心に飛段を見つめていた角都は、いつの間にか隣に立っていた店の男に声を掛けられて忍らしくもなくうろたえた。きれいな子ですねえ待ち人が来ないみたいですよちょっと呼んでみましょうか。男の言い方は決して野卑なものではなかったが、角都はまるで己を笑われたような心持がして、何かに焼かれたように身の内を熱くした。俺としたことが他者に見られていたことに気づかなかったとは、と角都は考えようとしたが、それはごまかしで、本当に恥ずかしかったのは飛段を覗き見ている自分を他人に見られてしまったことなのだった。相手に答えないまま顔の露出をマスクで覆った角都は、茶代を机に投げ、これ見よがしに暁コートを羽織ると店の外へ歩を進めた。件の店員にちらりと目をやり、自分はあれのツレなのだとアピールをしつつ相棒の名を呼ぶ。一見つまらなそうなそぶりで肩越しに振り向く飛段。なんだよテメーいたんならそう言えっつーの。嬉しげな憎まれ口を受け止めながら角都は考える。陰からひそかに窺うのも悪くないが、正面から相対しその視線を独占することができる身分の、なんと贅沢なことか。