ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

へそ曲がりども(ss)



狭い洗い場で俺と飛段は小競り合いを繰り返していた。木枯らしの中、常のように道々諍いながら目的地の宿に着いた俺たちは、湯を落とすから早く入るようにと言われた湯殿でもそれを引きずっているのだった。おい、きたねー泡をこっちに飛ばすんじゃねーよ、と飛段が言い、一つしかない洗い桶を俺の前から取り上げて自分の体を流す。その飛沫が俺の顔にかかる。俺は激しく体をこすり、石鹸の泡を飛段の流したばかりの背にはね飛ばす。やめろっつってんだろがコラ。ああ悪かったな。どすのきいた声に軽く返しながら俺は泡だらけの手で飛段の背を払い、さらに被害を広げてやる。あーっと声を上げた飛段は自分の手で被害を確かめると、てめーホントにやなヤローだな!とわめいて洗い桶の湯をこちらの顔にぶちまけてきた。振り回される桶をつかんで取り上げようとするが飛段も負けておらず、大声で騒いでいたところ、風呂場の引戸がいきなりぴしゃりと開かれ、俺と同輩ぐらいの宿の女主人が踏み込んできて、シヅネェ!コノワラスコドモ、ゴシャグデネ!と一喝し、またぴしゃりと出て行った。言葉の意味がわからなくとも叱られたということぐらいはわかる。俺たちはしゅんとし、とりあえず泡の流れた体を湯船に沈めてこそこそと口喧嘩を続けた。貴様が桶なんか振り回すからだ、バカが。テメーが泡をくっつけたからだろーが。湯をはね散らかしたのはお前だぞ。俺の体に触れないようできるだけ縮こまってる飛段が、だってテメーがオレの言うことと反対のことばっかりするから、とブツブツ言い、恨めしそうにこちらをうかがう。おい、キスなんかしたら承知しねーぞ。唐突な言葉に俺は一瞬戸惑うが、ああそうきたか、と妙に感心し、湯を揺らして相棒に近づくと、このへそ曲がりヤロー、と動く唇をふさいでやる。世話が焼ける奴め、どっちがへそ曲がりだ、まったく。