ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

番狂わせ(ss)



計画を立てたのは角都だ。容赦ない殺しぶりから人柱力ではないかと噂される男をオレたちはマークしたが、奴は組織の頭でガードが堅い。能率よくことを運ぶためにオレたちは一芝居打つことにした。角都は縛り上げたオレを連れて奴らのアジトを訪ね、ボスに会いたいと告げたのだ。自分は暁を抜けてきたのでこれからこっちの組織に入りたい、誠意のしるしに暁の賞金首を一人渡すので好きにしていいと。奴らはとりあえず手土産のオレを受け取り角都を迎え入れた。覚悟はしていたんだが、角都と離されてギチギチに拘束され薬をばんばん打たれてだるくなるとオレは嫌な気持ちになった。鎌がないとハダカみたいな感じがしたし、かたく縛られた手足は重くて冷たく、何かことが起きても動けないような気がしたから。いかにも牢屋って感じの狭くて暗い部屋にぶちこまれたオレは次第に怒り始め、こんなアホな作戦を考えだした角都を呪い、それにうかうかと乗った自分を責めたが、いつまでも待たされるうちに怒りが不安に変わってきた。ここは相手の陣地で強い奴もたくさんいるんだろう、角都は強いけど不死じゃないし心臓だって五個しかない、相棒のオレがいなくて困ってるかもしれない、けど今のオレではあいつを助けることができないんじゃなかろうか。そんなことを考えていたら、つかまっていじめられている角都がオレを呼んでいる幻覚が見え始め、夜の繁華街の酔っ払いみたいに薬に酔いつぶれたオレはしまいには心配で泣き出し、涙と鼻水を垂れ流した。きっとそういう薬だったんだと思う、誤解しないでほしい、オレはめったに泣いたりしない男なのだ。角都もそう思ったんだろう、ボスと一緒に部屋にやって来た相棒はオレが涙と洟まみれで床に転がりウーウー泣いているのを見てちょっとギョッとしたようだった。赤毛を刈り上げたマッチョと仲良く並んでいる角都が元気そうだったので、オレは泣き笑いし、ヨオと言った。うまく動かない口からよだれが流れたけど知ったこっちゃない。心の中でオレは叫ぶ。ヨッシャーやっと合流できたなソイツをさっさと片づけてこんな所出て行こうぜ角都!なんだコイツ頭が弱いのか、と言いながら近づいてきた赤毛は手下が寄こした刃物でオレの縄を切ると、それをそのままオレの胸に突き立て、ぐいぐいと揺すってこっちの反応を見た。いて、と言ってやると、へえマジで死なないんだなと言って、やけに先の尖った靴でこっちの顎を蹴り上げる。一瞬どこかの接続が切れて歪む視界に、オレを見下ろして喋る角都と赤毛が映る。見かけが良くてもナカに仕掛けがしてあるんじゃウリに出せねえな、何とかならねえのかコイツならけっこう稼げるぜ。客が死んでも構わんのなら好きにしろ、忠告はしたぞ。しゃーねーな後で誰かに試させるか、どんな仕掛けなのかわからねえんじゃ解きようもねえ、とにかく大事なのは金だ、アンタとは話が合いそうだぜ。同感だ、信じられるのは金だけだからな、ときにここでは金をどうやって保管しているのか知りたい、俺の専門分野なのでな。話の内容はチンプンカンプンだったけど、金について盛り上がる角都と赤毛はなんだかとても親しそうに見えてオレはまた悲しくなった。そういやオレは裏切られた役だった、用が終わるまで角都がオレの味方をするわけがないんだ。わかっていても切なくて、オレは寝転がったまま重だるい腕を引き寄せて涙を拭きながら、角都よォ、と呼んでみた。そしたら赤毛と一緒に部屋を出て行くところだった角都が片腕を上げたので、何かの合図かと思って見ていたら、赤毛の首がころりと落ちて床を転がり、手下二人の頭も続いて転がった。そのまま自分で扉を閉めた角都は、くそ、と押し殺した声を上げた。金のありかもまだ聞いていなかったのに何をしてるんだ俺は!くそ、くそ!扉の外では大勢がわいわいと騒ぎ、サイレンまで鳴り始めて大変やかましい。そいつ、人柱力じゃなかったんだな。回らない口でオレが言うと、角都は、ああ人柱力でも賞金首でもないただの残忍な殺し屋だ、と答えてコートを脱ぎ、オレを背負ってからまたそれを着こんだ。まるで巨大な赤ん坊の守をするねんねこ半纏を着たジジイって感じだ。それが妙にきびきびと、金の場所がわからない以上ここにいても無意味だ、行くぞ、などと言う。オイなんだよ最初っから金目当てだったのかよ、と今さら呆れるオレに、それから、と角都が言葉を続ける。もう二度とあんな声で俺を呼ぶな、わかったな飛段。残念なことにオレは負ぶわれていたし、扉を開けたらすぐにまわりじゅう大騒ぎで飛び道具は降ってくるし爆発が起きるしで、角都がどんなツラであんなことを言ったんだかわからずじまいだった。まともにオレを見て言ってくれりゃ、テメーが離れさえしなけりゃ呼んだりしねーよと返事ぐらいしてやったんだが。