ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

名手(ss)

さくま様からのリク「大雪」による小話です。さくま様、妄想の種をありがとうございます^^




朝になれば目が覚め、目が覚めれば起き出す。そんな当たり前のことをするために、角都は自分の上にのしかかる生き物をどかそうとして難儀する。おい、いい加減に起きろ、と唸った角都は顎の下に押しつけられてきた頭のせいで危うく舌を噛みそうになる。生き物は、まだ早いってぇ、と不明瞭にぐずぐず言い、鼻の埋め場所を探して角都の喉から耳元にかけてもそもそと頭をすりつける。まるで大きな犬か子牛だ。濡れた太い縄のように重く絡みつく腕を引きはがそうとしながら、角都はつとめて険しい声を出す。起きろと言ったろう、もう表はすっかり明るいぞ、怠け者めが。んー、と飛段は濁った声を出して相棒の体から片腕をほどくと、その手で相手の顔をまさぐって目を覆おうとする。朝じゃねえ、雪だよ。何だと。だーから外は雪なんだっつーの、明るいのは雪のせいなんだから気にしねぇで寝てろよ。この季節にこの地方で雪なんか降るわけがなかろうと角都は理屈を並べるが飛段には通じない。マジホントにすげー積もってるんだってぇ、オレにゃわかるんだよ、だからもう少しだけこうしてようぜ、いいだろ角都。相手の幼い言い訳と耳元の吐息と目を覆う手の感触をついうっかり楽しんでしまった角都は、ついに起床を諦め、腹の上の生き物の言いなりになってしまう。飛段は実は甘え上手である。狙ってうまくいくことはめったにないが、狙いを定めなければ、ほぼ百発百中だ。