ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

笠は口実・ある意味ション6(ss)



飛段はだらしない。服の着方もメシの食い方も歩き方も。まがりなりにも成人だし意見したところで聞く相手ではないから角都も大概のことは放っておくのだが、便所の扉を開け放したまま用を足すのには我慢がならない。開けたら閉めろ、と角都は怒鳴るが飛段はどこ吹く風であり、相棒が叩きつけて閉めた扉を次のときにはまた開け放すのである。その日、角都は近隣の情報屋を訪ねるため早く起床した。不死身のくせに死んだように眠る飛段を起こすことはしなかった。ほんの一瞬置き手紙をしようかと迷ったがやめた。ここは角都の部屋だ。部屋の主の服や持ち物がなくなっているのを見ればいくら阿呆でも状況はわかるだろう。初夏の清々しい空気の中を出立した角都は人影もまばらな街を抜けていく途中、ふと風に水の気配を感じて足をとめた。最近の天候は変わりやすい、帰路にかかるころには降っているかもしれない。まださほど歩いておらず、アジトまで笠を取りに帰ってもさして時間の無駄にはならないだろうと踏んだ角都は来た道をとって返し、先ほど後にしたばかりの自室へと戻っていった。予想に反してベッドは空だった。拍子抜けして乱れた寝具を眺める角都の耳に、じょぼじょぼ、という音が聞こえてくる。飛段が小用を足しているのだ、扉を閉めた便所の中で。澄ませる耳に、開けたら閉める、と飛段の独り言が届く。角都がいつも言ってんだろォ、開けたら閉めなきゃダメだぜ、オレ。角都は見慣れない閉ざされた扉をじっと見つめたが、すぐに身をひるがえし、部屋を出た。笠は不要だろう、濡れてもたかが知れている、早く道を行けば早く帰れるのだから。たとえ一分でも。