ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

何もなくても(ss)



何もない荒野を一日中歩いてやがて空が暗くなってくる。よりによってなんでこの数日ずっと石ころと枯れ木しかないこんなところを通るかな、と飛段は考える。きっと角都は何も考えていないのだろう、昨日も今日も明日も同じく生きているうちのほんの一日にすぎないのだろう。兵糧丸と水のほか飛段は武器しか持たない。角都も。夜が更けても温い風が吹きすぎる荒野で角都が急に立ち止まり、地図を広げる。月明かりのもと着実に目印を見つけ、相棒を振りかえるその顔を飛段は見つめる。今夜は強行軍だ、行けるところまで行くぞ。自分の要求を必ず通す強い声に飛段が短くおうと応えると、眉間に新たなしわを寄せた角都が再度振り返り、怪訝そうな声を出す。なんだ貴様妙に素直だな、具合でも悪いのか。ちげーよ。休みたいならそう言え、少しなら時間もある。疲れてなんかねーって。へらりと笑った飛段は相棒のすぐ傍に近づき、冗談のようにその手をとって歩き始める。何もなくてもお前にはオレがいる、と一途に思いつめて、でもその感情をひた隠しにしながら。歩調の違う二人の手はばらばらのリズムで動き、ひどく邪魔なのだが、互いに文句を言いつつも飛段は手を離そうとしないし角都も振りほどかない。自覚なくすべてを得た者たちの幸福は斯くの如し。