ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

我慢のしどころ(ss)



露店の店先で焼き鳥を食べたがる飛段を角都はいなそうとする。肉なぞたまに食うからうまいのだ、毎日食ったらうまいものもうまくなくなる、まったく若い者は辛抱が足らんな、我慢の末に欲しいものを得る喜びを少しは学べ。おいおいテメーにだけは言われたくねーぞ、と飛段が言い返す。ヤりてーときには好きなだけヤるくせによォ、そんならテメーも我慢してみろってんだクソジジイ。眉をしかめ口を歪めて悪態をつく相棒を角都はじっと見おろしていたが、すい、と相手の耳元に顔を寄せると低い声で告げる。九十年も辛抱した末にやっと欲しいものを手に入れた俺が言うのだ、少しは信用しろ。へええーそれって何だよ、わからんかバカめ、えっもしかしてオレのことかよゲハハ、うるさい黙れ飛段殺すぞ、という一連の流れの前で焼鳥屋の主人は一心不乱に肉を焼き続ける。俯けたままの顔は火に焙られてますます赤くなり、頭皮から噴き出る汗は白く塩のあとを残す。ならぬ堪忍するが堪忍という慣用句はまさしく至言なのだった。