ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

温泉マーク(ss)



銭湯の湯船がいっぱいだ。だが飛段は早く湯につかりたい。なので、湯船の一角にどっしりと陣取っている相棒のあぐらに尻を据えようとする。おいバカ何をする、いーじゃんケチケチすんなよ、どけ邪魔だろうが、やだねもう座っちまったもん。それまで和やかに入浴していた他の客たちは一様に黙り込み、そろそろとその一角から距離をとるが、充分な空き場所ができても飛段は角都のあぐらからどこうとせず、角都も動こうとしない。それどころか、まったく困った奴だな、ひとの迷惑にならないようもっとこっちへ来い、などと言って腕を相棒の胸に回し、誰も注意を払っていなかった飛段の乳首を隠したりする。湯船の客が一人、二人といなくなり、洗い場の客まで残らず出ていってしまうと、ようやく角都が動きだす。が、二人の体勢は変わらず、湯が波打つばかりだ。こら公共の湯を汚すな。テメーだって出したじゃねーか。俺はお前の中に出している、それが湯に混じるのはお前の責任だろう。ずりーぞテメー。言い合いながら、どちらもかなり満足している。角都は銭湯代の投資がうまく生きたことに。飛段は青空をバックにした名山を眺めながらことに及べたことに。外は冷たい雨だったから。