ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

始まりの日(ss)



警護は外しておくとのことだったが、実際には一般人を含む大勢の者がその屋敷を守っていた。角都と飛段は門を破り、向かってくる者を倒しながら屋内へ進んだ。扉の前に陣取って挑む者を次々に屠る飛段を残し、室内へ入った角都は、椅子に座っている目標と対峙した。女は見るからに怯えていた。当然だ、今から殺されるのだから。諦めようとして諦められないのだろう、机の上で組まれた手が体とともに震えている。けれども言葉は途切れず声にも張りがあり、角都は政治家としての相手の素質を再認識する。私には戦争が問題を解決するとはとても思えない、あなたはどう思うの。戦争は金になる、金はほとんどの問題を解決するものだろう。商業として戦争を考えても人が死んで国が疲弊したら元も子もないんじゃないかしら、こちらにとっても先方にとってもリスクばかりが高いと思うのだけど。そう考えるのはお前の勝手だ、国民は戦争を望んでいる、互いに互いの国が気に入らないのだからしかたがない、お前は国民に選ばれた国民の代表だろう、お前個人の考えではなく国民の総意に従うべきだったんじゃないのか。一時的な感情に流された多数意見が総意とは私は思わない、この国はすでに多くの血なまぐさい歴史を持っているけれど、そこから学ばなければそれら全部が無駄になるわ。バカだな、と角都が焦れたように言う。開戦してすぐ休戦に持ち込めば良いだろう、そうすれば言い訳も立ち外交的にも圧力となったのに。戦争は終わらせるのが難しいのよ、勝っているときにやめることは支持されないし、負けているときにはなお。そこで言葉を切った女は急に目を上げて、初めて角都の目を正面から見る。あなた、本当は戦争なんか。女の手の震えが止まり力強く握られるのを見た角都は、硬化した触手を矢のように女の眉間に突き立てる。無駄話を長引かせてしまった。すでに予定した時刻は過ぎており、室内のテレビからは首相が敵国に暗殺されたため開戦を決定したという緊急ニュースが流れている。副首相はなかなかの役者らしい。部屋を出た角都は相棒とともに闇にまぎれて国境へ走り出す。隣国を攻撃し、その国が現状を上回る報酬を出すなら矛先をまたこちらの国へと向けるために。暗い町のあちこちから高揚した、あるいは陰々たる声が湧き起こり、それは角都と飛段が到達する隣国でも止むことがない。開戦だ、開戦だ!