ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

価値観が違う(ss)



館の奥で財宝あらために余念のない角都は、遠くから金属のきしめく音を聞きつけて眉を上げる。援軍が到着するみたいだぜ、と窓枠に座った飛段がどうでも良さそうに告げる。飛段にとっては本当にどうでも良いのだ。もう充分に殺したから立ち去ってもいいし残って援軍を屠ってもいい。しかし角都は財宝を放って行くわけにはいかないし、特に紙幣を数えている今は誰にも邪魔をされたくない。人数はどれぐらいだ。んー五十人てとこかァ。使い手はいそうか。いーや、大したことねーんじゃねえの。焦らすようにゆっくりと答えた飛段は相棒にニタリと笑ってみせる。おめーオレにあいつらを片づけてほしいんだろ、だったら取引しようぜ、今夜オレの好きなとこに泊まって好きなもん食って好きなことをさせてくれるってんならあいつらまとめて始末してやる、どうだ。数字で頭がいっぱいの角都にとって飛段の提案はただひたすら面倒臭い。なので数えたばかりの札束をひとつ、宿でも何でも好きに使え、と飛段に投げ渡すが、肝心の飛段がそれを受け取らず、札束は床に落ちてしまう。おいおい金が欲しいなんて誰が言ったよ。金があれば何でもできる、同じことだろうが。ちげーよ、と飛段がいかにも辛抱強そうに言い返す。オレはね、オメーにいろいろやってほしいわけだよオレのために、それが何でわかんねーかなァ。飛段はさも簡単なことのように言うが角都には理解できない。だが金属音は既に近づいてきており、先頭の部隊が館の門を破壊する音も耳に届く。なので角都は、よかろう、と飛段の提案を飲む。ニッと笑った飛段が鎌をつかみ、今夜楽しみにしてるぜ角都ちゃん、と言って宝物庫を出ていく。ガシャンガシャンと始まる派手な合戦音を聞きながら、角都は先ほどの札束を拾い上げる。千両札が千枚で百万両。この束ひとつあれば大概の楽しみは手に入るだろうに、若い者の考えることはまったくわけがわからない。