ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

臆病者(ss)



以前に取り逃がした賞金首を仕留めた。真っ向勝負ではかなわないと学んでいた俺は、相手の相棒をまず殺し、いためつけたその死体を相手に見せつけ、わずかな隙をついて目的を遂げた。そんな卑怯な手まで使ったというのに今回も無傷では済まず、ずたずたの体を引きずって戻ってきた俺は、それでも他の仲間に見られることなく自分の部屋まで帰りつけたことにささやかな喜びを感じた。いつもより重いアタッシュケースを床に下ろし、コートを脱ぐ。体は休息を求めて軋んでいるが、その前に少なくとも汚れを落とし、怪我の処置をしなければならない。椅子に座り、足元の装備をゆっくりと外していると、ふいに扉が鳴って外気が入ってきたが、俺はそちらを見なかった。頭を上げるのも億劫だった。こちらのすぐ前に膝をついた相棒は、俺の凍えた両手を取って自分の首に押し当て、ぶるりと身震いをすると、次いで折ったままの俺の上体を下から支えるように押し上げて、そのまま抱きついてきた。おめーの体マジ冷てぇなぁ、傷開いてんぜ、ここも、ここも、まだ縫えるようになんねえの、いいよじっとしてろよオレが舐めてやるからよォ。あの賞金首の相棒もこんなことをしてくれたのだろうか。引きちぎった首を投げつけてやったとき、あの男は攻撃をかわすより首を受け止めることを優先し、そこに俺はつけこんだ。だが飛段は死なない、だから俺があんな思いをすることはないはずだ、絶対に。切り裂かれた体のあちこちを犬か猫のように舐めてもらいながら、俺は幸せと恐れを共に噛みしめる。多くの者が陥る罠にいつの間にか俺も足を踏み入れてしまっているのだった。