ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

安全牌(ss)



通過点だった街で、角都は偶然知人に出くわす。漁色家として名を馳せていた賞金稼ぎももう七十代、粋な身なりで金回りも良さそうだが、色ごとが昔のようにはいかないとこぼす。この歳では女を見つけるにも金ばかりかかる、誰か娶ればいいのかね、だが一人の女が相手では退屈だしなあ。お前のような不届き者は一生フラフラしていろと角都はそっけなく応えるが、そう言いながらも相手の好物だった古酒とイワシの塩辛を注文してやる。と、男は声をひそめて、お前の方はどうなんだ、と尋ねてくる。噂じゃ相棒一本槍だと聞いたが誰か別の相棒でもいるのか、それともアレが本当にお前の相手なのか。男が指差す窓の外、飲み屋のメニューが気に入らなかったらしい飛段が露店で買った焼きそばをすすりこんでいる。どう見ても柄の悪い若造であり、しかも口のまわりを茶色く汚している。角都は問いに答えず涼しい顔で冷酒に口をつけ、相手のガラス杯にも酌をしてやる。上機嫌である。用がないなら今夜はゆっくり飲まないか、と誘いまでかける。久しぶりに友人と思い出話をしたいし情報も交換したい。あの汚れた口のまわりを舐めまわすことがどんなに楽しいか理解できない男ならもってこいだ。