ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

委託殺人(ss)



老人が角都に茶を勧める。わしらにとっては大変なことだからね、三回断ったんだよ、けどどうしてもって言うもんだからね。茶をすすった角都が静かな声で、他の道もあるだろう、と言う。一宿一飯の礼をするとは確かに言ったしお前の息子を殺すことはたやすいが、殺さずにどこかへ放逐してはどうだ。うーん、と老人は喉から割れた声を出す。あれは昔から死にたがりでね、何度も死のうとして失敗した、まあ死にぞこないだ、わしらを殴ることも問題だが、あれをどこかへやったところでわしらの心配が終わるわけじゃなし、何よりあれが本気で死にたがっているんだからあんたがやらなければわしらがやるだけなんだよ、正直もう考えることにくたびれてしまってね。角都は開け放された縁側から外を見る。前夜から続く炎暑の中、菜園の野菜も心なしかぐったりして見える。老婆が桶と柄杓で水をまいている。青い空に白い雲。蝉がシャーシャーと鳴きしきっている。この家の息子がまだ幼かったころもここには同じ光景が広がっていたのだろう。かちゃり、と急須のふたを外して老人が出がらした茶葉に湯を注ぐ。角都はついと立ち上がると、廊下を通り、奥の間へ行く。やがて戻ってきた角都の前に、ガラスの皿に盛られたトマトがおかれる。老人同様顔をでこぼこに腫らした老婆が青黒くむくれた唇をひんまげてニッと笑う。あの子は砂糖をかけるのが好きでね、あんたさんも良かったらどうぞ。一瞬角都はこの二人も殺してやろうかと考えるが、やめておく。報酬も出ないことだし、そこまで慈悲をかけることはない。