ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

彼らが共有する憎悪とそのどうしようもない悲しみをおれはまだ知らない(ss)



角都とオレでやった連中に混じっていたガキが、オレたちに攻め込まれて突然とんでもない術を発動させた。気圧を操作したのだと後に角都が言っていたが良くわからない。動けないし耳は痛いし鼻血は出るし鎌は飛ばなくなるしで這いつくばって慌てるオレと一緒にガキの仲間もみんなじたばたしていたから、あのガキがあんな術を出したのはきっとあれが最初で最後だったのだ。角都の心臓の一匹が地中を走ってそのガキを殺し、そのあとオレらで他の奴らも皆殺しにしたから、ガキが術を成功させたことを覚えているのは角都とオレだけ。それも流れる時間の中で一回こっきり見ただけだから、あっという間に過去のことになっていく。奴らの荷から目的の巻物を探しながら、あのガキの術は大したもんだったな、と言ったら相棒が即座に否定した。術は出そうとしたときに出なければ価値がない、偶然発動した術など幻みたいなものだ、さっさと忘れろ。確かに角都の言うとおり肝心の術の仕組みがオレにわかるわけがないんだし、だったら敵味方関係なく凄まじい殺意を向けたあんなガキのことを覚えていたってしょうがない、他人の地獄はしょせん他人のものなのだ。だから忘れろと言った角都がガキの死体だけ木の下に埋めてやるのをオレはただ見ていた。手は出さなかった。