ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ご馳走はたまに食べるからおいしい(ss)



角都とオレである里の大名夫婦を片付けた。依頼主は夫婦の娘だ。これで仕事は終わりだったのだが、依頼主が「二人が生きているように偽装してほしい」と追加の依頼をしてきたのでオレたちは殺した夫婦に扮して一週間ほどその里にとどまることになった。役割については、言い争った結果、角都が夫をやることになった。オレはずいぶんふくれたが、いろいろと陳情やらなんやらを処理しなければならない立場なんだから角都が適任ではあったのだ。現に角都はそんなこんなを難なくこなした。オレはひそかに相棒を讃嘆した。オレはと言えば妻としての社交も満足に果たせず、体調が悪いからとすべての予定をキャンセルして屋敷にこもるしかなかった。召使というウザい監視の中、儀式もできず悶々とするオレだったが、角都の態度にはおおむね満足した。大名はたいそうな愛妻家として知られており、角都はその評判を落とさぬようオレをだいじにしなければならなかったのである。仕事の邪魔をしても角都は怒らず、客の前でもオレの手を握り、こちらが求めればいつでも愛撫とキスをくれ、夜の勤めも欠かさなかった。死んだ二人ががそうしていたからである。バカみたいな緞子の帳の中でやっと変化を解いたオレたちは、それでもいつもみたいに叩き合って大笑いするようなまねはせず、ただ愛し合った。布一枚隔てて召使が仕える寝室で素の声が漏れないよう口をふさがれて行う営みはそれなりに刺激的であり、行為の後に運ばれてくるさわやかな美酒ともどもなかなかに魅力的だった。さて、妻の体調を案じた大名が妻と二人で静養に出かけるというふれこみで里を旅立ち、国境を超えて供の者を返したとたん、オレたちの関係は元に戻った。行く道のことで争って殴り合い、宿をめぐって口げんかをし、野宿をして川の水を飲み、互いの尻を叩きあいながら荒々しく交わった。優しく甘かった関係は霧散してしまったが、それでいいのだろう。どんなにうまいものでも毎日食ったら飽きるし、何より体に悪い。