ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

親切な下心(ss)



ぬかるんだ道で角都のサンダルの片方がいかれた。べちゃべちゃの泥の中に片足立ちして角都はサンダルを修理しようとするが、手こずっている。水牛の群れをつれた農民がしょっちゅう通る道で、ぬかるみからは豊かなクソの香りがしている。オレはおもしろがって相棒の難儀を見物したが、だんだんかわいそうになってきた。カバンをあずかろうかと持ちかけると、角都の奴実にしぶしぶといつもは絶対に手放さないアタッシュケースをオレによこす。いいこと考えたぜ、このカバンに座ればいいじゃねーか。おい貴様、この泥の中にそれを置いてみろ、殺すぞ。ハァ?しゃーねーなあ、んじゃオレがお前の椅子になってやろうか。肩越しに振り向いた角都は、奴のアタッシュケースを股に挟み、小腰をかがめて両手のひらを差し出すオレに狂人を見る目を向けてきた。失礼な野郎だ。なんだよ文句あんのかよォと言ってやると、角都は何やら言いにくそうにもごもごと、手のひらを下に向けろ、と注文をつけてくる。バカかテメー、手のひら下に向けたら力入んねーだろが。なら指をもっとピンと伸ばせ。伸ばしてください、だろ、他人にものを頼む態度じゃねーぞコラ。おかしな格好で言い争うオレたちを農民と水牛たちがじろじろ眺めつつ追い越していく。こいつらが通り過ぎれば角都は折れる、かもしれない。奇妙な姿勢で両手を前に差し出しながら、手のひらに黄金の重みが―親切に対する報酬がおろされるのをオレはじっと待つ。辛抱強く。