ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

生まれたばかりの赤ん坊もこんな気持ちなのかもしれない(ss)



角都がオレの贄を横取りした。生け捕りの方が賞金が高いんだと言う。カネを欲しがるなとは言わないが、そんなこと一言も言わずにオレに戦わせておいて相手が動けなくなったら取り上げるなんて虫が良すぎる。オレは怒り、構わず贄の血をとろうと鎌を振り回したら、角都が硬化した腕で鎌を食い止めた。そこからはぐちゃぐちゃだ。オレは贄を殺そうとし、角都は守ろうとし、そのうちマジで角都が憎くなってきて矛先がそっちへ向いた。角都は瀕死だけどまだ生きてる贄を抱えて攻撃をかわし続ける。本気を出さない相手にむかっ腹が立ち、オレはワイヤを長く繰り出して鎌を泳がせ、奴が苦手とする背後からの攻撃をしかけた。ワイヤを引かれて弧を描いた鎌は狙い通り角都の耳の後ろあたりに、気持ちがいいぐらいざっくりと突き刺さっていった。ヒャッハー硬化してなかったのかよバーカ、とオレはわめき、ちょっと笑ったけど、角都が起きてこないのでそばに寄ってみた。貫通した鎌の刃先が仰向けに倒れた角都のこめかみから飛び出している。うー、と唸ったのはその腕の中の贄で、角都は目を開いたまま動かない。オレはもう一度、ヒャッハー、と言ってみたけど嫌な汗がどっと出てくる。硬化していなかったのは相手がオレだったからか?心臓のストックはあったはずだけど脳をやられたら角都はどうなるんだろう?急に干上がった口を「かくず」の形にパクパクさせて突っ立っているオレの前で、相棒の体は急にポフンと煙を立てて消える。もういい加減にしろ、さっさと行くぞ。いつもの低いうんざりしたような声が後ろから聞こえてきたとき、オレは我慢ができなくなって大きな声で泣きだした。うおーうおーと泣き叫ぶオレの前にやってきた角都はダラダラ出てくるオレの涙と鼻水を無駄に拭こうとしながら何か言っている。しまいには死にかけの贄をオレの前においてその血をくっつけた指をオレの口に突っ込んだり、地面の鎌をこっちの手に握らせようとしたりしてくる。奴の指をくわえたままオレは泣きわめく。みっともないがどうしようもない。生きているということはこんなにも怖くて悲しくて嬉しいことなのだと今オレは悟ったところなのだ。