ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

いればいい(ss)



手負いの賞金首を取り逃がした翌日、角都が姿を消していた。服がまるまる脱ぎ捨てられており、当初飛段は相棒が水でも浴びに行ったのだろうと考えたが、全裸であたりをうろつくのは角都らしくない。付近を探しても目当ての姿を見つけられなかった飛段はしおしおと野営地へ戻ったが、もしやと期待していた相棒はやはり不在で、落胆した飛段は残されている衣類やカバンを眺める。衣類と自分はともかく、だいじな金を残して角都がいなくなるとは考えにくい。こうなると腹も減らず、飛段はしばらく呆然としていたが、ふと足元で小さなアマガエルが自分を見上げていることに気がついた。そういえば目覚めたときにも顔のすぐばにカエルがいたような気がする。しゃがんで片手を差し出すとカエルは跳んで乗り移り、のどをふくらませてケロケロと鳴く。吸盤のついた前足にはそれぞれ黒い二本線が入り、背にはかさぶたのような四つの小さな面がくっついている。オメェ角都か、ケロケロ、というやりとりですんなりと納得した飛段は、角都の装束をまとめて縛り上げ、アタッシュケースとともに背に担ぐと、左肩に件のカエルをのせて旅路についた。カエルの体表が渇いてくれば口で霧を吹き、生肉を小さくちぎって与えながら、飛段はいつもと変わらず相棒と対話を続けた。今日も暑くなりそうだぜ、あいつらやけにこっち見てやがんなァカエルがそんなに珍しいんかな、あそこにいるのオメーが好きな賞金首じゃねーかゲハハァやっぱそーか残念だろォ角都、うっせー儀式の邪魔すんな焼いて食っちまうぞこの野郎。そうして数日を過ごしていたあるとき、ゲコゲコ言うカエルに逆らって宿泊した中級の宿の一室で、突然角都が元の姿に戻った。やっと術者が死んだな、ああそーいうことかよ、と久しぶりの言葉を交わしてから、角都は情感をこめて相棒を見下ろす。フン、俺がいなくて寂しかったんじゃないのか。えー、だってオメーいたじゃん。俺は寂しかったぞ。なんでだよオレだっていたじゃんテメーわけわかんねーな。かみ合わない会話をしながら角都は相棒のペンダントを引きちぎると抗議の叫びを自分の口で封じ、性急にことをすすめていく。飛段ほどに悟り切れない角都はカエルのときにしたくてもできなかったことを全部するつもりだったのである。