ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

にぶちん(ss)



ほかに宿がないという理由で角都が高級旅館への宿泊を決めたのでオレは驚いたり喜んだりした。部屋は広くてきれいで静かだし運ばれてくる飯も申し分ない。酒も頼む。たいした散財ぶりだ。きっとただの気まぐれでどうせ明日はまたケチに戻るんだろうし、オレはせいせいと好きなだけ飲み食いする。角都はいつもより無口である。ときどき何か言いたそうにするが結局は何も言わない。角都にしちゃ珍しいがそんな姿も可愛いのでじっくり観賞する。飯が終わると風呂だ。これがまた良い湯で、しかもぬるめの露天なのでのぼせることなくいつまでも入っていられる。満喫していると、急に角都が、この間帳面を買った、買った時には気に入らなかったが思ったよりも使い勝手が良く、今ではこれがないと仕事も私生活も困ることになる、と言う。へーと相槌を打ったが他に返す言葉もない。何でそんな話を、と考えていると、角都が急に今度は湯を褒めだす。温泉はいい、毎日入っても飽きることはないだろう。そーでもねーぜと言ってやると奴はむきになって、いや、いいものはいい、と言いつのる。本当にいいものはいくら繰り返してもそのたびに喜びがある、温泉に限らず見るもの聞くもの感じるものすべてがそうだ、いいものはいい、俺がそれに飽くことはない、絶対に俺は飽きない。へーとオレは再び相槌を打つ。奴がそんなに力説するほど温泉と帳面好きとは知らなかったが、まあどうでもいいことだ。そんなことより今夜はどうやって遊ぼうか。