ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・無益の歌【色眼鏡】(trash)

角飛界の雄dokumoreのこあん様から「色眼鏡」「しりとり」「共鳴」のリクエストをいただきました。聞いただけでいろいろ萌え萌えできるお題ですね^^
それぞれのお題で少しずつ書いて一つのお話にしようと考えているのですが、どうにも遅筆でぼやぼやしております。とりあえず書けたものから上げてまいります。次がいつになるやら…のんびりお待ちいただければ幸いですm(__)m



【色眼鏡】

 オレの足元で吸殻が小さな山を作っている。いつもはそんなに吸わないが今日は寒いし待ち時間もいつもより長い。窓ガラスから店の中をのぞくとカウンター席に足を組んで座っている女が見える。と、こちらを向いた女が眉を上げて見せたのでオレは窓から離れた。しょっちゅうのぞかれるのがいやなんだろうがオレも暇だし寒いし腹も減っている。早いところ獲物を見つけて楽なところへ引っ込みたい。夜なんだからコートを着てくるべきだった。もうそんな季節になっていた。
 道路には路駐の車がびっしりと並んでいる。いちばん近くに停めてある車へ近寄ってみた。まっ黒な外車でガラスも黒く中が見えない。オレは黒いガラスに映る自分に舌を出して見せた。中に乗ってる奴がいたら面白いなと思ったけど車はしんとしたままだった。
 また店の窓のそばへ戻る。女はまだ一人だ。引っかけるカモを選ぶのはいつもユギトに任せている。オレが選ぶ奴らはなぜかどいつもこいつも大した金を持っていないからである。アンタは金に縁がないからねとユギトに笑われたことがあった。見た目だけで相手を判断しちゃダメとも言われた。反撃してきたカモを叩きのめして身ぐるみ剥いでみたのに五千円しか見つからなかったときのことだ。紫色の下着姿でベッドの上に胡坐をかき、呆れたように、でも優しく笑ったユギトはほれぼれするほどいい女だった。
 そう、ユギトはいい女だ。頭も体も気立てもよくて美人だが、自分ではそう思っていないらしくやたら濃い化粧をしている。今日部屋へ迎えに行ったとき、ユギトはこたつで猫背になって鏡と向き合い、念入りに唇を塗っていた。わきにしゃがんでそれを見ていたら、急にこっちへ向き直ってオレの頭を片手でつかまえ、口紅を乱暴にこすりつけてきた。もちろん口にだ。間接キスかよと聞いたら目をつり上げて、アンタむかつく、と言った。女ってやつはまったくわけがわからない。
 今日のユギトは赤いタイトスカートに黒い網タイツをはいている。いかにもな格好なのに凛としていてしかもセクシーだ。黒くてぴったりしているセーターの下から硬そうな胸がボンボンと左右に突き出している。あれを生で拝みたくないなんて野郎はタマナシじゃなかろうか。足元は黒いピンヒール。並ぶとオレと同じくらい背が高い。そこまで考えて思い当たった。今店にいる奴らはそろって背が高くなさそうだ。つまらないプライドが欲の邪魔しているのかもしれない。
 店を変えようかと考えていたときに背後から音がして振り向くと、さっきの黒い車のドアが開いて男が降りてくるところだった。アタッシュケースをぶら下げて、そのまま店へ入っていく。オレよりも背が高い。オレはいそいでラインを送る。今入った黒コートの男、車も高そうだし絶対金持ちだと思う。窓の中の女がスマホを眺めている。そしてゆっくりと足を組み替える。オレは一瞬寒さを忘れる。店内を歩いてきた件の黒コートが、まるで決められていたかのように女の隣の席に腰を下ろしたからである。