ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ぐぬぬ(ss)



角都と飛段が訪れた宝飾店はたいそう混んでいた。情報屋を兼業する店主は忙しそうだ。客が切れるまで待つことにし、角都はベンチに腰を下ろして先ほど購入した古書を開いた。飛段は店内をうろうろしていたが、そのうち女の客と話し始めた。角都は横目で伺った。胸を強調するミニのワンピースにピンヒール、巻いた髪を垂らして装飾品をじゃらじゃらぶら下げている。陳列棚の陰で飛段が何か言うと女がのけぞって笑い、片手で飛段の肩を突いた。なにそれありえなーい。いやいやマジだってこれ。やだーやばいうけるーこんどパパにためしてみるー。バカが、と角都は視線を本へ戻す。そうしてしばらく過ごし、現れたパパと女が店から出ていくと、飛段がぶらぶら角都のそばへ歩いてきて身をかがめ、耳元に口を寄せてきた。おい、さっきからページめくるの忘れてるぜ。何の話だ、と角都はかろうじて返すが、いつもより早口になってしまう。と、開きっぱなしのページに輝く石をあしらった金細工の鎖が落ちてくる。さきほど飛段の前で身をくねらせていた女が首に巻いていた鎖。飛段がニヤリと相棒の目を覗き込む。店は混みあっていてまだ当分空きそうにない。