ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

好奇心(TEXT)

同類です。



 他人の痛みはわからないという常識を飛段はやすやすと乗り越える。角都がその感覚について尋ねてみると、飛段は、あー、と言ってしばらく考えた。
「自分が痛ぇのより、えーと、純な感じ?予測がつかないっつーか」
 角都はわからないと思い、そう言った。
「ほらよぉ、てめぇでてめぇをくすぐっても何ともねぇけど、他人にやられりゃ違うだろうが。なんかゾクゾクすんだよ」
 やはりよくわからない。飛段の儀式はどことなく性的だが、本人に自覚は無いらしい。どのような気持ちで行っているのか単純に知りたかったのだが、飛段自身どう表現すべきかわからないようだった。
「ま、無神論者にはわかんねーんじゃね?宗教の恍惚ってヤツはよ」
「そんなもの1文にもならん」
「あーあーまたカネかよ。カネの亡者っててめーのことだよな、ホント」

 たまたまその日のうちに飛段の儀式を見ることになった。
 珍しく急かされずに儀式を終え、顔を上げた飛段は、やはり常になく静かに待っていた角都の視線が杭に向けられているのを見て呆れ顔をした。
「なんだよそんなにコレに興味があんのか?」
 だったら入信しろよーと騒ぐ飛段から角都は目を逸らせた。無意識のうちに見ていたことを知られるのは癪だった。
 反応の無い角都に飽きた飛段は胸から杭を引き抜いたが、急にその血まみれの杭を角都に向けて伸ばして見せた。
「おい、てめーで儀式やってやろーか、知りてぇんだろ、どんなもんか」
「感覚は双方向じゃないだろう。それに、生憎だが死を楽しむ趣味は俺には無い」
 バーカ冗談だよ、そんなんで儀式やるなんて冒涜だぜぇ、でぇソーホーコーってのは何だ、術かなんかか?ベラベラと喋りながら飛段は角都に近づき、握ったままの杭をガランと角都の脇に投げ出した。

「そういう角都はどうだ。お前も心臓取りこむだろーが。相手の命をお前ん中につなぐときに何か感じねーのかよ」
 確かにあれは興奮する作業だと角都は認めた。他人の心臓が自分の内臓として認識されるまでのわずかな間、その臓器は不安定な立場にある。すぐに血液型や心筋の制御を脳が解析し、それは角都のものとなるが、その時に感じられるのは多分、勝利感だ。
「そらみろ、てめーもオレと同類さ。理由は違うが、死を楽しんでるんだ」
 飛段はニタニタしている。角都は飛段の襟元をつかんだ。
「オレが何感じてるか知りてえっつってたな、角都よ。オレの心臓取っててめーに入れてみろよ、なんかわかるかもしれねーぜ」
 なぜこんな話になったのだろう。考えながら角都は飛段の胸部に触れていた。飛段は相変わらず笑っている。ああ、イイぜ、やれよ。