ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

新しい習慣(TEXT)

コーチング」の翌朝です。短いです。猫鍋っぽい感じで。



 朝、起きだした角都がいつものように眠りこける相棒を蹴りつけ、用を足して戻ってくると、飛段が地面に頭をつけてうずくまっていた。
「何をしている。新しい祈りか」
「…うー……クソォねみー…」
 丸くなってゴニョゴニョ言っているが、どうやら先日町で聞いた覚醒法を試しているらしい。まじめなことだ、と角都は少し感心し、しかしいつまで続くものかと怪しく思った。見ていると、腕立て伏せのように飛段は腕を突っ張り、胡坐をかいて傍観している角都にのろのろと這い寄ってくる。ウーウー唸っていなければ巨大なダンゴ虫に似ていなくもない。
 頭が角都の膝に当たるとダンゴ虫は動きを止め、ウーウー唸ったあと、モソモソと角都の膝に上がってきた。角都はとりあえず相手を払い落したが、飛段が再び這い上がってきたので、これは寝ぼけているのではなく意図的なものと判断した。

「なんだ」
「んー、なぁー…せなかぁ…」

 そういえば誰かに背をさすってもらえと昨日の男は飛段に言っていたようだった。飛段の他に、ここには角都しかいない。まさか、自分に背をさすれと要求しているのだろうかこいつは?
 膝の上に居座った重さと体温にうろたえ、角都は意味もなくあたりを見回した。野宿場所はぽつぽつと灌木が生えている殺風景な岩場で、当然ながら人の姿はない。困惑する角都をよそに、飛段は丸めた長身を角都の胡坐におさめようと、はみ出した脚を折り曲げ縮めている。こんな図体が膝の上に乗るわけがないのだが。

 しばらくすると、胡坐の中から含み笑いが聞こえてきた。
「…起きたのならさっさと降りろ」
「んー、も少し…なあ明日もやってくれよぉ、これ」
「調子に乗るな」
「マジで目ぇ覚めるんだって、ホント。金かかんねぇしいいだろぉ?」
「わかったからモゾモゾするな、気色悪い」

 容赦なく地に落とされた飛段は、仁王立ちの角都を見上げてニタリと笑いながら「照れてんのかよォ角都チャン」と言い、勢いよく腹を踏まれてしばらくのたうちまわることになった。以降、朝の習慣には腹踏みまでがセットで含まれるようになった。