コスチューム野郎(TEXT)
ゴタゴタのお詫びに今日中に何かアップしなくちゃ、とキーボードを叩きました。
くだらない小話です。角都視点で。
今の相棒と顔を合わせたとき、廉恥心の無さそうな奴だとは思った。肌の露出が多く顔立ちが整っていたので、容姿で営業しているプロの殺し屋だろうと推察したが、はずれた。飛段はただ顔が良くて殺しがうまいだけの育ちすぎたガキだった。
ガキは変なものを好む。
「なー角都ゥ、あれ買ってくれよー、なー」
宗教に付随するさまざまな面倒ごとはまめに守るくせに、飛段は飽きっぽい。子供だましの見かけに文字通り騙され、安っぽい品物を欲しがってはすぐに次に目移りする。
一時期は怪しい自己開発器具に心を奪われ、俺は往生した。例えばエ○ソンバンドである。エヂ○ンバンドによって頭脳活性化をはかれば自分の戦力が上がるので、ひいては俺にとっての投資だと奴はいうのだ。ばかばかしい。そんな金があるなら馬券でも買った方がマシだ。あれなら外れても焚きつけにはなる。
「聞いてんのかよ角都、おい!お、あれもいいと思わねぇ?」
さすがに武器に関しては目利きだが、これも下手をすると「気に入ったから」という理由で、やけに派手なデザインの手裏剣をたくさん買い込んだりするから油断ができない。
「マジ超お買い得だって言ってるぜ、角都!財布よこせよオレ買ってきてやる!」
連れがこんな状態ではきちんと値切ることもままならない。
考えた末、小遣いを渡すことにした。月々500両は奮発しすぎかとも思ったが、心の平安を買うのだからと踏み切った。
飛段は神妙な顔で金を受け取った。俺が金を渡すのだからよほどのことだと思ったらしい。大事に使うのだぞと念を押したらコクコクと頷いた。
その日から、飛段はぱたりと強請ることをやめた。
「飛段、小遣いの管理はできているのか」
「んー、欲しいものいろいろあっからさァ、ほら、ケーカクテキに使おうと思ってんだよ」
飛段に計画性が芽生えたとはめでたいことだが、俺の目の届かぬところで奴は何を買おうとしているのだろう。自主性に任せた今、金さえせびりに来なければ何も言うことがないが、俺は素直に喜べなかった。
数日後、アジトの飛段の部屋を訪ねた俺は、その品物を目にすることになった。
箱にはいろいろな装束が入っていた。変装用だと梱包を解いていた飛段は言う。
「暁コートってすっげー悪目立ちすぎなんだよォ。どこで何してたって『オレたち暁でございます』つってんのと同じじゃん。ほら、角都も着てみろ。似合うぜェ」
「今どき印袢纏姿の大工なんかいるか」
飛段の意見は一理ある。けれどもなぜ箱にネコミミセットが入っているのだろう。擬態の一種じゃねーの、というのが飛段の意見だった。
「女物の服なんかどうするつもりだ。下着まで…」
「どうするか聞きてえか?聞きてえよなあ!」
ゲハハハと笑いながら飛段は立ち上がり、コートの前を(変質者ふうに)開いた。
「ほうら!」
俺にさんざん殴られた飛段はブツブツ言いながら服を箱にしまった。
「角都にはもう見せねえ!せっかく届いたのにめちゃくちゃしやがって!」
「あんな…破廉恥なものを許すわけには…」
俺はマスクの上から鼻を押さえた。マスクをしていてよかった。血臭は飛段のものでかき消されている。
「なんだよオレの金で買ったんだぞ?文句たれてんじゃねーよ」
「だがあんなもの着る意味がないだろうが」
チッチッチッと飛段が指を振った。
「角都チャン甘いな。考えてみろよ、戦ってる相手が宙返りした時にハダカのケツと黒いガーターベルトと網タイツが見えたらギョッとすんだろ。ウエエエエーってなんだろ。そこが狙いよ」
その隙にばっさりと、と続く言葉を俺は遮った。
「だめだ、絶対に許さん」
「ハア?なんでだよ!」
「理由などない!ダメなものはダメ!」
何枚か装束が損なわれていたためクーリングオフはできなかった。飛段はこれの半額を俺に払わせようとし、成功した。そのことには俺もびっくりしている(ネコミミをつけている奴とまともに交渉するのは困難だということがわかった)。
ともあれ半分の権利を得た俺は、装束は俺と二人の時だけ身につけるという約束を飛段にさせた。胃が痛むときも多いが、存外うまくいっている。飛段への小遣いは今後も継続して支払われる予定である。
くだらない小話です。角都視点で。
今の相棒と顔を合わせたとき、廉恥心の無さそうな奴だとは思った。肌の露出が多く顔立ちが整っていたので、容姿で営業しているプロの殺し屋だろうと推察したが、はずれた。飛段はただ顔が良くて殺しがうまいだけの育ちすぎたガキだった。
ガキは変なものを好む。
「なー角都ゥ、あれ買ってくれよー、なー」
宗教に付随するさまざまな面倒ごとはまめに守るくせに、飛段は飽きっぽい。子供だましの見かけに文字通り騙され、安っぽい品物を欲しがってはすぐに次に目移りする。
一時期は怪しい自己開発器具に心を奪われ、俺は往生した。例えばエ○ソンバンドである。エヂ○ンバンドによって頭脳活性化をはかれば自分の戦力が上がるので、ひいては俺にとっての投資だと奴はいうのだ。ばかばかしい。そんな金があるなら馬券でも買った方がマシだ。あれなら外れても焚きつけにはなる。
「聞いてんのかよ角都、おい!お、あれもいいと思わねぇ?」
さすがに武器に関しては目利きだが、これも下手をすると「気に入ったから」という理由で、やけに派手なデザインの手裏剣をたくさん買い込んだりするから油断ができない。
「マジ超お買い得だって言ってるぜ、角都!財布よこせよオレ買ってきてやる!」
連れがこんな状態ではきちんと値切ることもままならない。
考えた末、小遣いを渡すことにした。月々500両は奮発しすぎかとも思ったが、心の平安を買うのだからと踏み切った。
飛段は神妙な顔で金を受け取った。俺が金を渡すのだからよほどのことだと思ったらしい。大事に使うのだぞと念を押したらコクコクと頷いた。
その日から、飛段はぱたりと強請ることをやめた。
「飛段、小遣いの管理はできているのか」
「んー、欲しいものいろいろあっからさァ、ほら、ケーカクテキに使おうと思ってんだよ」
飛段に計画性が芽生えたとはめでたいことだが、俺の目の届かぬところで奴は何を買おうとしているのだろう。自主性に任せた今、金さえせびりに来なければ何も言うことがないが、俺は素直に喜べなかった。
数日後、アジトの飛段の部屋を訪ねた俺は、その品物を目にすることになった。
箱にはいろいろな装束が入っていた。変装用だと梱包を解いていた飛段は言う。
「暁コートってすっげー悪目立ちすぎなんだよォ。どこで何してたって『オレたち暁でございます』つってんのと同じじゃん。ほら、角都も着てみろ。似合うぜェ」
「今どき印袢纏姿の大工なんかいるか」
飛段の意見は一理ある。けれどもなぜ箱にネコミミセットが入っているのだろう。擬態の一種じゃねーの、というのが飛段の意見だった。
「女物の服なんかどうするつもりだ。下着まで…」
「どうするか聞きてえか?聞きてえよなあ!」
ゲハハハと笑いながら飛段は立ち上がり、コートの前を(変質者ふうに)開いた。
「ほうら!」
俺にさんざん殴られた飛段はブツブツ言いながら服を箱にしまった。
「角都にはもう見せねえ!せっかく届いたのにめちゃくちゃしやがって!」
「あんな…破廉恥なものを許すわけには…」
俺はマスクの上から鼻を押さえた。マスクをしていてよかった。血臭は飛段のものでかき消されている。
「なんだよオレの金で買ったんだぞ?文句たれてんじゃねーよ」
「だがあんなもの着る意味がないだろうが」
チッチッチッと飛段が指を振った。
「角都チャン甘いな。考えてみろよ、戦ってる相手が宙返りした時にハダカのケツと黒いガーターベルトと網タイツが見えたらギョッとすんだろ。ウエエエエーってなんだろ。そこが狙いよ」
その隙にばっさりと、と続く言葉を俺は遮った。
「だめだ、絶対に許さん」
「ハア?なんでだよ!」
「理由などない!ダメなものはダメ!」
何枚か装束が損なわれていたためクーリングオフはできなかった。飛段はこれの半額を俺に払わせようとし、成功した。そのことには俺もびっくりしている(ネコミミをつけている奴とまともに交渉するのは困難だということがわかった)。
ともあれ半分の権利を得た俺は、装束は俺と二人の時だけ身につけるという約束を飛段にさせた。胃が痛むときも多いが、存外うまくいっている。飛段への小遣いは今後も継続して支払われる予定である。