ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

では出かけるか(TEXT)

アニメを見て、道中の話を書きたくなりました。そのための導入です。
続きはゆっくりかと…。すみません。



 暁の中でも角都と飛段は外回りの仕事を割り振られることが多い。オレらつえぇからなぁ!と飛段は得意だったが、ある日、それが相棒の操作によるものと知って機嫌を損ねた。

「おい角都、デイダラちゃんに聞いたぜ、奴らの仕事おめーがやるっつったんだって?やっと昨日アジトに着いたってのに、すぐまた仕事入れるこたーねぇだろうがよ」
 部屋に押し掛けて文句を言う相棒を無視し、角都は計画書をためつすがめつしていた。効率よく動ければ要件は数日で片がつく。該当地は紛争地帯なので雇われ兵が集まっているだろうし、中に賞金首が紛れている可能性もある。心中舌なめずりをしていると、飛段がのしのしと近づいてきて、いきなり机に腰をおろした。
「無視すんじゃねーよ」
 ちょうど計画書が広げてあるところを狙ったのだが、角都は一瞬早くそれを引き抜き、椅子の向きを変えて内容の検討を続けた(角都の椅子は一見質素だが本革張りの高級品でキャスターも滑らかに動く)。ムッとした飛段は椅子の背を蹴ろうとしたが、これもかわされた。よけんなコラ!と噛みついてみたが、先方の意識が完全によそを向いていて構ってもらえないことがわかると、しかたなく飛段は相棒の手の中のものに注意を移した。達筆すぎて読みにくい角都の文字と地形図、それになんだかわからない数式がぎっちりと書き込まれている。計画書ォ?

「飛段、来週は忙しくなるぞ。覚悟しておけ」
 角都は嬉しげと言っていい声を出し、肩越しに覗きこむ飛段を見上げた。
「見てみろ、ボロい儲けだ。俺とお前の二人でな」
 いつもと異なるアングルの角都にちょっとドキッとし「俺とお前」でうっかり嬉しくなってしまった飛段は、相手が再び紙切れに注意を戻すのを見て我に返った。
「…違うってェ!なんでオレらが行くんだっつー話!他のやつらの仕事だろォ?」
「あいつらは必要なことしかやらん。金儲けの機会をフイにするのがおちだ」
「まーたカネかよ…」
 ケッ、と飛段はふてくされて床に座り込んだ。相棒の金への執着を否定はしないが、その執着に否応なしに巻き込まれるのは組んでいる自分だ。この議論は何度も繰り返しているが、口で角都に勝つのは難しい。
「組織のためとか言ってるけどよォ、ホントはてめーが金好きなだけだろーが」
「金は裏切らないからな」
「おい、相棒の前でそれ言うかフツー」

 ともあれ角都の中でもう決まった話なら今さら何を言っても無駄なのだった。来週は仕事、しかもきっと角都は取りこぼしの無いようにじっくり時間をかけるに違いない。全然のんびりできねーじゃんかよ、とぶつぶつ呟く飛段の上から角都の声が降ってきた。
「お前は退屈が嫌いだと思っていたがな」
「退屈とのんびりは違うぞ。ホラ、なんつーの、のんびりってのは用事に追い立てられたりしねーで、ボーッとしたりさァ」
「そんなことは帰りの道中でできる。それに、外の方が邪魔が入らん」
 くだらねェと最初聞き捨てた飛段は、ふと角都を見上げた。角都は計画書に集中している。狙った発言ではないらしい。飛段は少し赤くなった頬を恥じてうつむき、モゴモゴ言った。
「チッ、せめて決めるときはオレにもひとこと言えっつーの」
「言おうが言うまいが、どうせお前は俺と来るんだろう。同じことだ」
「…そうだけどよ」

 今度は角都が飛段を見下ろした。赤く染まった耳を見てそっと息をつく。まったく、こいつと組んで以来のんびりなんてできたためしはない。