ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

勧誘(TEXT)

ちょっと間をあけたら、書き方を忘れててギョッとしました。先が思いやられる…。
出張先で、とてもエキセントリックな人を見て思いついた、我ながらわけがわからん話です。


 その男はさまざまな獣を口寄せし、幻術を操った。尾獣の人柱力だという噂は多分そこから派生したのだろう。もしかしたら本人がその噂を流したのかもしれない、と角都は考えた。派手な自己演出を好む男だったからである。


 人柱力でないのなら殺して口を封じるだけだ。相手が賞金首ではないことからテンションが上がらない角都に比べ、最近儀式をしていなかった飛段は俄然乗り気になり、自慢の鎌を振り回した。
「よっしゃーコイツはオレがやってやる!屠ってやるから覚悟しろよォ!」
「キミは品がないなあ。いかにも頭が悪そうだけど、それってフリ?それとも本当にそうなの?」
 飛段の鎌を避けながら男は自分の長い赤毛を指で漉き、そこから小さな蜘蛛を無数に飛ばした。蜘蛛は飛段と角都の体に取りつくと、複数匹でまとまり、男の分身を形作った。己の体から他人のパーツが生えてくるのは不気味な光景で、角都は生理的な嫌悪からそれを手刀でそぎ払った。男の手であったソレは地上で顔に変化し、今度は角都に向けて語りかけた。
「腕にスミ入れてるんだ。もしかしてキミ、前科者なのかな。だからあんなできそこないと組んでいるの?」
 社会に適応できないってツライんだろうねー、と続ける顔を踏みつけ、蜘蛛をわらわらと散らしながら、角都は相棒の様子を伺った。飛段の方は体から生える手に動きを阻害され、苦戦している。白兵戦なら負けないが、トリッキーな相手だととたんに分が悪くなるのだ。なぜなら、
「頭悪いもんね、キミの連れ」


 角都の足元から、男の全身イメージがゆらりと立ち上がった。飛段より少し小柄な、中性的な容姿のそれが、じっと角都を見上げてくる。
「キミ、よくあんなのと組めるね。と言うより、アイツあんなに頭悪くてよく人前に出られるね。驚いちゃうよ」
 身構えることもせず、角都はいかにも幻術めいた相手をしばらく眺めた。
「ああいうのがよりによってパートナーだなんてさ、ボクだったら耐えられないな。同じ種類に見られちゃうだろ。キミは頭が良さそうなのに、なんでアイツと組んでるの?やめればいいのに。なんならボクが組んであげようか。キミとボクだったらいいコンビになれるよ…ねえ、あれ見てごらん、ほんとバカだと思わない?」
 大きく鎌を空振りしてわめく飛段を指して男が笑う。つられて視線を飛段に戻した角都は「そうだな」と呟き、すり寄る男の頭を片手で撫で、相手のクナイが背に届く寸前に、首をそのままねじり折った。


 あれ、と動きを止め、角都を振り返った飛段は、おい本体そっちかよォと声を上げて駆け寄ってきた。
「角都ゥ、手ェ出すなっつったろーが!」
「ちょっとムカついてな」
「くそっ、そっちのなんだかブレてたからさァ、てっきりオレの方が本体だと思ったんだよなー」
 男の骸をひっくり返し、あーあージャシン様ァすいませんまた相棒がやっちまいましたァと嘆く飛段に角都は尋ねた。
「飛段、こいつはお前に何か言ってきたか。一緒に組もうとか…」
「いーや全然。だってェ、組むったってオレにはお前がいるじゃん」


 自信に伴わない低い実力をはったりで補いながら生きてきた男は、騙す対象から飛段を除外していた。自分が選ばれたことに澱のような不快を感じながらも、角都は底の浅かった男の判断の確かさを思った。
「バカを騙すのは難しいからな」
「…ハァ?なんだよソレ!オレのことバカにしてんのか角都!」
「いや、俺のことだ」
 マスクの下で角都は口を歪めて笑みをこらえた。愚か者の特権である突き抜けた絶対的幸福感が、小利口な奴らにわかってたまるか。