ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

手に残る記憶(ss)



その日、飛段はまだ儀式を終えていないうちに相手が意味ありげに取り出した巻物をのこのこ覗きに行き、両腕を切り落とされた。急ぎ円陣に戻ったものの「心臓一突き」の手段がない。大した相手ではなかったので(当然懸賞金もかかっていなかった)傍観していた角都は、さっさと手を貸せェ!といつものように怒鳴られて、やれやれと腰を上げた。金にならない殺しに気乗りするはずもなく、だから油断するなと言ったのだ、といつもの小言を返しながら飛段のコートの隠しから杭を取り出し、片腕で抱いた体の胸部中央やや左寄りを無造作に突いたのである。鋭い先端は、それでも抵抗を示す皮膚をプツリと通過し、弾力ある肉の組織をまるですり抜けるように貫くと、肋骨をかすりながらさらに硬い筋肉のかたまりに到達した。ぐっと力をこめてそれを突きぬいた瞬間、杭は角都の手の中でびくびくと暴れたが、それはそっくりそのまま飛段が達する時の動きであり、その証拠のように、角都のもう片腕の中では翼をもがれた鳥のような飛段本体が仰のいて震えていた。日常においてもっと不道徳なことを平然と行っているくせに、今でも時おり角都は非常に背徳的な気持ちであの時の感触を思い起こすことがある。