ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

まるで純情(ss)



ただ大げさに騒いでいるだけかと思っていたが、飛段は本当に匂いが気になる性質のようで、ときどき病的な面を見せることがある。つい先ほどは、氷雨が降るからとせっかくとった宿の部屋の匂いが気に入らないらしく、鼻にしわを寄せ、開け放った窓に向けて脱いだコートを振るっていた。当然寒いから俺は奴を殴り、窓を閉ざした。ふくれっ面をした飛段はくせーくせーと言いながら室内をうろうろしていたが、俺は構わず帳簿をつけていたのである。そのうち変に静かになった気配が気になって背後を窺ってみると、奴は頭にコートをかぶって不貞寝をしていた。ふむ、と視線を戻そうとした俺は、奴自身のコートが部屋の隅に鎌ごと丸めて置いてあることに気がついた。そして鴨居の衣紋掛けに掛けてあったはずの俺のコートが見当たらない。よくよく見てみると、あらわになっている奴の腹筋がせわしなく上下している。この変態野郎、俺のコートをかぶって匂いを嗅いでいやがる、と気づいたとたん、身の内が煮えるように熱くなった。コートを取り上げなくては。しかしあんな格好で布をかぶっていたらアレの顔は赤く上気しているかもしれないし、そんな奴に面と向かって何を言えばいいのだろう?だいたい俺の顔色は今どうなっている?コートを本当に取り上げてもいいものだろうか?