ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

商売(ss)



暗い穴蔵のような薬屋で、角都は飴色に光る時代物の椅子に座り、店の主人と薬の調合について語り合っていた。ぼんやりとともる灯りの下で、陶器の蓋付き茶碗から柔らかな湯気が細くたちのぼり、複雑な配合の茶葉の香りがただよう。気心の知れた主人は尋ねられたことに答えるのみでほとんど無口だが、角都はそこが気に入っていた。角都の相棒は、やはりとろりと磨かれた木製の長椅子に仰臥しているが、その静かなさまはまるで物のようである。時を見ていた主人はやがて立ち上がり、飛段のコートの前を外すと丁寧にそれを開き、下肢も膝までをあらわにした。瞼を押し開いて眼球を見、首筋、胸部、腋下、腹部、下腹部、内腿、膝裏と触診する。新薬の効果は彼の期待にそわなかったらしい。渋面で飛段の眠る体を探る主人を眺める角都の耳に、さらに暗い店の奥から主人の娘がうたう平坦な旋律が聞こえる。あなたの手を見せてください、瞳を見せてください、体に触れさせてください、私の耳はあなたの声ばかり拾い上げるのです、どうしたら良いのでしょう。お前の娘、病はもう癒えたのか。角都の問いには答えず、主人が低く呟く。お支払いとは別に、何かお気に召したものがあればご自由にお持ちいただいてよろしいのですよ。