ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

みなまで言うな(ss)



飛段が挙動不審だ。さりげないふりをしながらしきりに何かを気にしている。その視線が自分の下半身に注がれているように思われて、歩きながらも角都は落ち着かない。ぎろりと飛段を睨んでみるが、相手はそっぽを向いて目を合わせようとせず、そのくせ角都が前を向くと、また同じ場所に視線をうろつかせる。ひどく鬱陶しく、苛立ちを募らせた角都は相棒の胸倉をつかみ、何を見ている、と詰問した。意外にも飛段は抵抗したり文句を言ったりしようとはせず、むしろ言いにくそうに口を開いた。なあ角都、今朝オレたち宿出る前にバタバタしたろ。角都はわずかに頷く。昨夜珍しく酒を過ごした二人はつながったまま寝過ごし、超過料金が生じる寸前に慌てて身支度をして宿を引き払ったのである。飛段は、あのよ、と言い淀んでから続けた。角都、怒んなよ、オメーもしかしてノーパンじゃね?オレの袖ん中に何か入ってんだけど、これパンツじゃねーかと思うんだ。飛段が片袖から何かをを引っ張り出すのを固まったまま見ていた角都は、出てきた布きれを見て微かに緊張を解き、相棒を放した。それはお前のだろう飛段、この俺が下着無しで出歩く阿呆に見えるか、貴様と一緒にするな。言いながら角都はいったん引いた不安の黒雲が再び胸の中にわき上がるのを感じた。いや、まさかそんなバカな。や、それがさ、と頬を染め、バツが悪そうに続ける飛段を見て不安は確信に変わる。実はオレ、穿いてんだよパンツ。だから…。