ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

たまには惚気てみる(ss)



暑いと言ってもよい異常な陽気が続いた二月の夜、国境を見下ろす高台で角都は古い馴染みの情報屋を待っていた。昼間の熱がかすかに残る岩場に相棒と背合わせに座り、互いに別方向を見張るうち、やがて背後から近づいてきた気配に角都は振り向くことなく片手を上げて挨拶をした。角都の正面に回り込んだ情報屋は声に出して驚きを表現しながら地面にしゃがみこみ、角都と目を合わせてからもう一度小さな声で、おいおいなんてこった、と繰り返した。こんな物騒なところで呑気に寝ているなんてお前ら気でもふれたのか。俺は眠っていない、と角都は返し、声が高いぞと注意を促した。慌てて距離をつめる情報屋に、ひそめた声で、そんな声を出されては飛段が起きるだろう、と言う。悪臭を嗅がされたように頭を引いた情報屋は、奇妙な動物を見る目で角都を眺め、声を出さずに口だけ動かした。最小限に抑えた声で角都も共に唱えてやる。おいおいなんてこった、気でもふれたか角都!