ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

名誉を守る(ss)



談話室の片隅で本を読んでいた角都は、怪我からやっと復帰しすっかり調子に乗っている飛段が他の者たちと談笑しているのを聞くともなく聞いていた。話題の中心になっているのは飛段だ。自身言うところの「ギタギタのズタズタのグチャグチャ」にされた顛末について、たいそう脚色した話をぶちあげている。下らんと聞き流しているうちに、盛り上がった話題はいつの間にか角都の帰還に移った。ぼろぼろに痛めつけられ口から中身を溢れさせた自分がゼツから吐き出された様子について、皆が和気あいあいと話している。角都自身それを聞きながら、確かにあの時の自分は死体同然だったなと他人事のように思い出していた。まさか角都さんのあーんな姿を拝む日がくるとは思ってなかったっすねーとトビが笑った時、突然飛段がキレた。角都がどんだけ戦ったかテメーらわかんねーくせに、何にもわかんねーくせにいい加減なこと抜かすんじゃねー、屠るぞゴラァ!怒りの矛先を向けられたトビは、つかみかかる飛段から逃げながら片隅へ呼びかける。ちょっちょっと角都さんそこにいるんでしょ、あなたの相棒どうにかしてくださいよぉ。ふざけた声音に本気の色を聞き取った角都はしかたなく読書を諦め、騒ぎに割って入った。立ちふさがった角都に肩を押さえられた飛段はさすがに動きを止めたが、体をこわばられたまま顔を真っ赤にしてフウフウ言っており、衆目の中で泣きだすのではないかと角都はぞっとした。どうした飛段、俺がやられたのは本当のことだろう、ガキじゃあるまいしそんなことでいちいち怒るな。うるせーと飛段が怒鳴る。おこんのたりめーだろうが、オレはてめーのツレだぞ!一瞬言葉を失った角都の手を肩から振り払うと、飛段は足音を荒げて談話室を出て行く。大事にされてるんすねえ角都さん、と悪ノリするトビを睨むと角都も部屋を後にする。幸せそうな己の顔を他人の目にさらすなんて我慢ならない。全裸でぼろぼろの死体同然の姿を見られるのはまったく平気だったのだが。