ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

蝿(ss)



山越えの峠に、やや干からび始めている二つの骸があった。離れたところからも異音が聞き取れるほどに蝿がたかっていた。喉元一直線の傷は、腕とクナイを足した長さより短い距離を隔てて敵と対峙した証だろう。その相手も側頭部にクナイを突き立てられてじっとしている。相討ちなら何か金目の物が残っているかもしれないと骸を蹴り転がす俺を見て、飛段が顔をしかめた。死なないこいつが蝿にたかられる日は決して訪れないのである。食物連鎖から解脱してしまっている相棒の整った容貌が妙に腹立たしくなった俺は、飛び立った蝿がまた元の場所に戻るのを待たずに相手を殴り倒して組み敷いた。そばに骸の転がる花盛りの椿の下で。