ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

肉の花(ss)

「記憶される骨格」の続きです。



不死の余裕か飛段は自分の体に無頓着で、そのことに俺は性懲りもなく苛立った。バカが、と罵ってみても無くなってしまったものは仕方がない、しかし人ひとりの目を洗うのに水を全部使ってしまうとはなんという無策だろう。水遁を使えるほどに俺のチャクラが回復するのと水場を探し当てるのとどちらが早いのかわからないが、どちらにせよ水はすぐには手に入らない。別にいーじゃねーか、と暢気に盲目の飛段が言う。オレ角都のコートつかむから先に歩けよついて行くから。道中攻撃されたらどうするのかなんてこの愚か者が考えているわけがないので俺は一人で思案した。当座どうにかすべきなのは、相棒の目の手当と汚染された俺の手の洗浄であろうと思われた。ことが決まればやれることをするだけである。俺は飛段に動くなと命じて顔を寄せ、目元に唇を当てた。本人は目玉がとけたなどとふざけたことを言っていたが、あれは催涙ガスの一種であったから、薬品を取り除いてやれば症状は改善される。眼窩を舌でなぞり、かたく閉じた瞼をゆるませ、眼球を舐めて唾液を含ませる間、珍しいことに飛段は言いつけを守り、ただ俺のコートの前を握って正座のままじっとしていた。汚れた頬が薄く染まっていた。化学物質を充分に取り除いてからも、俺は斜めに仰のいた顔から唇を離さなかった。我ながらどうかしていると思いつつ、どうすることもできなかった。食虫植物に自ら踏み込んでいく虫の狂気とは、このようなものかもしれない。