ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

風雨(ss)



飛段は壁に寄りかかり、宿代を値切ろうとする角都を見ていた。飛段は泊まりたい。外はひどい降りようで、玄関の引戸が風にあおられてガタガタ鳴っている。今から野営地を見つけるには遅く、ここを断られたらそのあたりの木の下で夜を過ごすことになりそうだ。頑固そうな背中を睨んで飛段は、泊まろう泊まろう角都よ、と念を送る。ずぶ濡れで過ごす夜はみじめなものだし、正直なところ、体の芯にくすぶる燠火もどうにかしたい。相手がいないなら一人ででも。そんなことを考えながら視線を相棒の背に絡ませていた飛段は、振り向いた相手と目を合わせてしまい、かすかにぎくりとした。角都は無表情のまま相棒にあごをしゃくる。宿泊決定らしい。内心のやましさを押し隠し、それでもいそいそと相棒についていった飛段は、部屋のドアを閉ざしたとたん、けしからんことを考えていたのは自分一人ではなかったことを知るのである。