ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

花落(ss)



道中、桜の名所である山を抜けようとしたところ、どこかの大名の護衛に通行を拒否された。護衛の間から窺うと、その大名一族が公共財産を私物化し、華麗かつ文化的に花見をしているさまが遠く見えた。黙って立っていると、隣の相棒がああーつまんねーなぁと頓狂な声を上げた。見らんねー桜なんか無ぇのと同じじゃねーか。奴の論理の破綻はともかく、おもしろくないな、と俺も思った。実におもしろくない。ちらりと相棒を見ると奴もたくらみ顔でこちらを見ている。きっと俺も同じ顔をしているのだろう。前ぶれなくほぼ同時に走り出した俺たちは、護衛の防衛線を飛び越え、桜の枝を荒々しく渡りながら大名一族の宴に突入した。阿鼻叫喚の中、琴を踏み割る俺に、相棒が重箱を投げてくる。俺は折り取った桜の枝でその重箱を打ち返し、返す枝で毛氈を引っかけて払う。腰を抜かした大名が毬のようにころころと転がる。まさに落花狼藉。気を取り直した護衛が攻撃を仕掛けてきたのを潮時に、俺たちは花吹雪の中を意気揚々と引き揚げる。見れば相棒の手には戦果品のスペアリブが数本握られている。俺の袖の中では金の煙管と装飾品がチャラチャラ音を立てている。どこでどんな形であれ、やはり花見は良いものだとS級犯罪者の俺は改めて思うのである。