ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

悔いを刻む(ss)



事前に得ていた情報通り、その男はにわかには信じがたいような大きさのダイヤモンドを体内に埋め込んでいた。まだ新しい縫い目からダイヤをほじくり出した角都はその大きさと輝きに魅せられた。所有者がすぐに死ぬという言い伝えも故のないことではないだろう、現にこの男も前の持ち主を残忍なやり方で葬っている。このような危険なものはその価値を解さない者に持たせるのが良い。よって角都は小ぶりの鶏卵ほどの大きさのそれを飛段に手渡し、このガラス玉は幸運を呼ぶと言われている、とおまけの嘘までつけたしたのである。たいした品ではないが大きな町でならそれなりの値がつく、それまでお前が持っていろ。幸運を呼ぶだなんてバッカじゃねーの、と鼻で笑いながらも、珍しく角都が託してきたキラキラするガラス玉を飛段は気に入ったらしく、折にふれてポケットから取り出しては眺めるふうであった。宝石商のいる町に着くまでこのままで行こうと角都が考えていた矢先のこと、突然飛段が体調を崩し、二人は安宿で予定外の逗留を強いられることになった。常に共にいたというのに相棒だけが病みついたことに角都は当惑した。不死者の余裕かまったく自分の状態に頓着しない飛段をよそに、数日のうちにその体は衰弱し、薬すら持たない角都は内心うろたえながらそれを見守るしかなかった。十日目の夜、飛段は床に伏したまま件のガラス玉をポケットから取り出し、角都に返してよこした。せっかくオメーがこれ貸してくれたのにザマぁねえや、お前先行け角都、オレ後から追っかけるから、な。そう言ったきり目を閉じてしまった飛段を角都はしばらくじっと見下ろしていたが、やがて、返されたばかりの宝石を掌に包むとギリギリと握りしめた。自分には飛段に触れる資格がない、と角都は考え、ひどく薄くなってしまった布団のそばで俯いた。最硬度を誇る天然鉱石は、さらに硬い手の中でしばらく持ちこたえた後、かすかに軋んで砕け、硬化を解いた手指に深く食い入っていった。