ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

祈りはしない、要求である(ss)



機密窃盗に気づいた相手側の布陣は迅速だった。人道的な軍隊などというものがあり得るかどうかは別として、隊長は徳の高い人物らしく、まず住民をその地域で一番頑健な建造物である公会堂へ避難させた。俺たち相手に大きな戦闘をするつもりなのだろう。突破するのは簡単だが、俺たちは住民とともに夜を過ごすことにし、見張りの目をくぐってかび臭い屋根裏へ入り込んだ。相手の裏をかくためではなく雲の流れから激しい嵐の兆候が読みとれたからである。次の目的地までわざわざ嵐をついて野営しながら行くことはない。暗い一角に腰を据えると、濡れたコートを脱ぎ棄てて通風口から外を見ていた相棒がふらふらと近づいてきた。俺の傍らに立ったまま腰を曲げて耳元に口を寄せ、笑みを含んだ声をまるで手渡すかのようにささやく。こんな雨どうってことねぇだろうに珍しく時間を無駄にするんだな角都よ、時は金なりじゃねえのか。機密文書を濡らすわけにはいかんだろうと答えると、飛段はへぇと言い、無遠慮にも俺の腰を跨いで腰をおろしてきた。じゃあそういうことにしといてやるぜ。低い声で甘ったれながらこちらのコートのボタンを外してくる。階下からは状況に興奮する住民たちの不安なざわめきに混じって祈りの詠唱が聞こえる。多少の音なら気づかれまい。ごそごそ動く背が冷えないようにコートの前をかきあわせると、おいおいキツイぜと文句を言いながら相棒が嬉しそうに笑った。今夜はもう少しましな宿をとってやりたかった。俺がこいつにしてやれることなど本当にたかが知れているのだ。だから俺はせめて今できることで相棒を喜ばせようとしつつ、こいつが信奉する何者かにむかって強く求めた。可能であるなら、お前が実在するなら、こいつがこいつの在りたいように在るべく成せ、神よ、と。