ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

花と酒と喧嘩(ss)



田舎道での喧嘩で角都がオレの体をまっぷたつに引き裂いていたとき、がらがらと荷車を引いた男が曲がり道から現れた。間の悪い男は口をあけたまま立ち尽くしていたが、中途半端に引き裂かれているオレがじろじろ見んじゃねーよジジイと言うと、ヒョオッと変な声を上げて荷車を置いたまま走っていった。喧嘩を中断したオレたちはそれを見送り、多分同じことを考えていた。荷車には文字の書かれた大樽が三つ載せられている。あれは酒ではなかろうか。角都もオレも日頃あんまり酒を飲まない、金がかかるからだ。けれども今日は酒の方からオレたちの元にやってきたのである。角都と角都に縫い合わされたオレは二人して荷車を移動させ、八分咲きの桜の大木の下に据えると、その皮を剥いで器を作り、樽を開けた。田舎くさい濁り酒は強いくせに飲みやすくて、しばらく飲むうちにオレはさっきのくさくさした不機嫌をすっかり忘れ、それでも何か言ってやらなきゃいけない気がして角都ににじり寄った。たわわな花がふきだす幹に背を預けた角都は少し眠たそうな目でこっちを見ていたが、ふと手をあげると重たい力でオレの頭をつかんで引き寄せ、自分の酒の器を口に押しつけてきた。乱暴に流し込まれる酒は桜の香りがしてひどく甘かった。むせるオレの口の周りを角都は舐め、新たに補充した酒を、今度は角都の体温にぬるめて、ゆっくりとオレの中に注いだ。すっかり酔っ払ったオレは解放された頭を持ち上げることもできず、角都の腕の中で仰のいていた。桜がふかふかと咲く中で見下ろす角都が、ほら見ろお前は手荒くされるのが好きなんだろう、と生臭いことを言ったので、こんなもの手荒いうちに入らねーよ、とオレも回らぬ舌で言い返した。さっきの喧嘩が別の形で続こうとしていた。