ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

百舌の速贄(ss)



角都は逃げることを恥じない。三十六計逃げるに如かずと言うではないか、これは合理的な兵法だ。得るべき巻物も略奪したし、強力な術者が増援に来ているのが気配として感じられるなら、疲労した体で到着まで待つことはない。ただ、厄介なのはついさっき儀式を始めたばかりの相棒である。早くしろ、儀式の邪魔すんなバーカ、などという不毛なやり取りをする間も惜しい。そうこうする間にも増援の気配は迫ってくる。心を決めた角都は、横たわる相棒に行くぞと(おざなりに)声をかけつつその鳩尾から生えている杭をつかみ、ぐいと深く突き込むと、杭ごと相棒を肩にしょいあげた。宙ぶらりんに背負われた飛段はハァー?!と叫んだが、続く罵詈雑言はすぐに疾走しはじめる相棒の動きに揺すぶりちぎられ、角都の耳に届くのは、おっおぅ、ぐへぇぇ、といった意味をなさない声の羅列である。途中、走りながら背後をうかがった角都は予想よりも素早い追手の反応に速度を上げた。杭に貫かれたままぶらぶら揺れる相棒の情けない様子にふっと何かを思い出しかけたが、それを考えるのは後回しにし、かわりに往路で一度通っただけの道と地形を冷静に思い起こしてどこで追手を撒くか計画を練る。大丈夫、まだ利は自分たちにある。そう自分に言い聞かせつつ、角都は奇妙な荷を風になびかせたまま荒野を疾走し続けるのである。