ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ああぶざまだ、けどどうしても!(ss)



安い作りの、一見していかがわしい宿の前でオレは相棒を呼び止めた。なぁ、ちょっと休んでいかねぇ?耳に入る自分の声が緊張していて、オレは肩を震わせる。まだ午後も早く宿泊には不自然な時刻、じらじらと照る太陽の下でオレの意図は隠しようもない(額に「スケベ」と書かれているような気がする)。角都は首だけで振り返ったまま、とりあえず立ち止ってくれている。表情はまったく読めない。ただ相棒に向き合って立っているだけなのにオレはガチガチにかたくなっている。昨夜、角都は宿にオレを残して一人で情報屋と落ち合い、そのまま戻らなかった。朝になって帰ってきた角都をオレは観察し、何かの痕跡を探そうとした。仕事をしてきたはずの相棒を疑うのはオレも心苦しい、けどここんとこオレたちご無沙汰だし奴もオレ同様溜まっているはずだ。ここで誘いに乗らなかったらそれなりに怪しんでもいいんじゃないか。いつもみたいに、やろーぜぇ、とじゃれた方が良かったかもしれない、でもどうしても断られたくない気持ちが声に乗ってしまった。後に引けなくて、オレは角都を見つめて立ち尽くす。睨んでいるようなあの目は興味を示しているのだ、と思いたい。でないとこの沈黙はキツすぎる。やがてジリッと土を鳴らしてこちらに踏み出してくる相棒を、オレは初めてナニするガキのように焦がれて待ち望む。わかっている、安いのは宿じゃなくて勝手に惚れたオレなのだった。