ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

容赦(ss)

「なぜオレが怒られる」の角都サイドです。読みたいと言ってくださった方に。



上機嫌に近づいてくる飛段の首筋に明らかに吸われた痕を認めた俺は、情けないことに言葉を失った。俺がいつもそうするように、飛段は賞金首を背にぶら下げていた。確かこいつの背丈は六尺ちょっとで飛段より大柄だったはずだ。だからだろう、賞金首の足は地にすりびかれて傷だらけになっている。ほらよ、と相棒が得意気に寄こしてきた死体を俺が払うようにわきに投げると、ニタニタしていた相棒が、へ?と言った。そいつだろオメーが探してた五百万両って。地面に落ちた賞金首を覗きこもうとする飛段に、考えるより先に動いた手が髪を鷲づかみにする。その痕はどうした!と俺はやっと戻ってきた言葉をぶざまな高音で発した。いち、にぃ、さん、三ヶ所もあるぞ、いったい何の痕だ!強く髪を引くと、飛段はイテェ禿げちまうと騒ぎ、眉をしかめて俺を見た。乱れた服と胸元の血、剥がれた爪、ひとり奮闘してきたに違いないのだが、見ようによっては別のしるしにも見えてくる。いるかどうか確かめてこいとしか俺は言わなかったぞ、何をされた、何をしたんだ飛段!飛段が俺の手をつかんで髪を振りほどこうとする。離せよテメーいてェよ!しゃーねーだろー、そいつが誰かを待ってて、そこにたまたまオレが行っちまったんだから、チューぐらいフツーだろが、いやしてねーよされただけだって、オレは耳を噛んだだけ!とたん、この自己愛的マッチョな賞金首が飛段を抱きすくめて首を吸い、飛段がそれにこたえている映像が浮かび、俺は逆上した。耳を噛んだだと…?小さく呟くと飛段がわめき返す。血が入用だったんだよォ儀式に!俺の脳は状況を理解したが気持ちはついていかない。噛んだだけか、舐めたりもしたのか?お前変な声は出さなかったろうな?他にどこを触られた?ガクガクと頭を揺すりながら答を待たずに言いつのると、それまで抗いながらもこちらを説得しようとしていた飛段が不意に大声で叫んだ。オレを行かせたのはテメーだろーが、テメーのせいだ全部、テメーが悪い!ぎょっとする俺に飛段は叫び続ける。オレすっげーやだったんだぞ角都、けどテメーが喜ぶだろうからってがんばってがんばって、なのに、こんな、オレほんとバカみてーじゃねーか!俺は今になって飛段の足元に目を落とした。靴を回収できなかったのだろう、傷だらけの足が土にまみれている。真っ赤な顔でうーうー言っている飛段の髪を今更ながら俺は離し、ぐしゃぐしゃの前髪をぎこちなく撫でつけようとした。飛段は身を固くしたが拒まなかった。そのことで俺がどんなにほっとしたか、多分飛段にはわからなかったに違いない。