ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

静かなるラジオ(ss)



閉店して久しいらしい寂れた質屋の店先で、ここで少し待て、と言い置いていなくなった角都は丸二日たっても戻らなかった。金も与えられず、置いて行かれたその場所でしばらく待っていた飛段は、しびれをきらして街を徘徊し、それでも相棒を見つけられずに結局元の場所に戻り、空腹を抱えて丸くなっていた。怒りや苛立ちはすっぱい不安にとってかわり、飛段を苛んだ。金と同じく時を惜しむ角都がこのようなことをするのはおかしい。何かトラブルに巻き込まれたか(角都自身がトラブルを生む存在だということは飛段の念頭になかった)、あるいは自分が待ち切れずに持ち場を離れた際に行き違ってしまったのではないか。どちらの考えもひどく悲しく耐えがたかったので、それから逃れるために飛段は質屋の飾り窓を割ってみたが、立ち退きが進んで廃墟が並ぶ街は反応を返さず、飛段はいっそうの孤独を噛みしめることになった。日を浴びすぎてしらちゃけたラジオを飾り窓から取り出し、電源がないままスイッチを入れてみる。今、飛段は一切のしがらみから解放され、自由だったが、かつて当たり前だったそれはその空虚さで飛段を打ちのめした。飛段はラジオのスピーカーに口を寄せ、おい、角都よ、と呼んでみた。軽い冗談だったはずの声は不格好に揺れて主をさらに不安にさせ、最初からなかったみたいにラジオの中へ吸い込まれていった。